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こころねNEWS

「こころね物語」朱夏/その一、3人での出発 

2018.07.18

2007年3月24日土曜日。当日のことは10年以上が経った今でもよく覚えている。船出にふさわしい晴れを期待していたが、朝からずっと雨が降っていた。長年夫婦で夢見た船出の日が雨とは少々気持ちが落ちるものだが、そんな事を気にしている余裕はなかった。身内から届けられた花が玄関先に並べられ、とりあえず開店らしく一応の格好はついた。お客様が来る前に、夫婦と息子と3人で玄関の前で記念写真を撮った。もう一人、義母の外美枝にシャッターを押してもらったが、本人を入れた写真は撮り忘れた。

最終準備で前夜は仮眠をとった程度。当日になってもあれこれやることは残っている。むしろ終わることはない。多くの宿屋は15時のチェックイン時間に合わせて仕入れや客室清掃、そして料理の仕込みなどを段取りしてからお客様を迎え入れる。合間に事務作業をこなし翌日の11時のチェックアウトへと1日はサイクルしていく。これは小規模で家族経営の宿ならば、業務の分担化は殆どされておらず、全ての業務は夫婦でこなすこととなる。朝から夜遅くまで一日中走り回っている感覚だ。食事も僅か10分程度で殆ど立ち食いだ。とはいえ全ては覚悟の上で始めたことで、泣き言を言っている場合ではない。これから毎日このような生活となるのだ。業務の分担化されていないとはいえ、3人の担当は大体が決まっていた。主である昭男は料理、WEB集客、接客、清掃、仕入れ、力仕事。女将である有紀は接客、事務全般、清掃、仕入れ、アロマエステ、育児。そして女将の母である外美枝は調理補助、清掃、洗濯物、育児手伝い。後に従業員を雇える様になるまで、身を削りながらの毎日だった。夫婦共に32歳とあって、体の心配などする必要もなく、勢いだけで日々を過ごした。

その日は勤め時代からのリピーターと、妻の友人夫婦、そして辛うじて自力で集客した新規のお客様。静かな船出となったが、あの日のことは決して忘れない。夫婦は満ち足りた表情をしていたに違いない。夢にまで見た独立記念日だ。

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宿からのコメント

宿こころねとオーナー夫婦の物語です。生い立ちから青春時代、そして独立し今日に至るまで。
青春・朱夏・白秋・玄冬と時代ごとに私たち夫婦の人生と宿こころねの成長を伝えていけたら。
そんな思いで書き綴っています。
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